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藤村幸司
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しゃべりすぎ&しゃべらない実況
2007-12-10 Mon 15:10
スポーツ実況は、アナウンサーの花形と言われます。しかし、これほど奥深く、難しく、いくら追求しても答えが見つからないものもありません。「絶叫がうるさい」「表現が下手」[勉強不足」「独りよがり」「偏った放送」などなど、実況アナウンサーに対する視聴者の批判は、その大半が理解できますし、同業者としても耳が痛いところです。

中でも、最近は実況が「しゃべりすぎ」と感じている人が多いようです。毎日放送の元アナウンサーで、現在は関西地区の情報番組『ちちんぷいぷい』のパーソナリティを務める角淳一さんは、番組の中で「スポーツ中継は、音を消して見ている」と話していました。実況がうるさすぎて、競技を素直に楽しむには、音がないほうがいいからというのが理由です。スポーツファンの中には、実況を消して映像だけを見ている人がいるのは分かりますが、アナウンサー出身の角さんからも、『実況不要論』が出るのは深刻です。

昭和11年から35年までNHKのスポーツアナウンサーとして一世を風靡した志村正順さんという大先輩がいます。志村さんについて書かれた『志村正順のラジオ・デイズ』(尾嶋義之著)によると、彼の実況はかなりのスピードだったようです。以下引用すると、

志村は「声の軽機関銃」とも呼ばれた。また「横板に水」とも言われた。「立板に水」は早口を形容する言葉だが、志村のは横板でも流れるようにすらすら伝わるという意味である。彼の大先輩、松内則三アナウンサーが冗談で彼にこう言ったことがある。「おまえの放送は北海道へ行くとやっと分かる」―東京では速すぎて分からないが、電波が北海道へ達するころにはスピードも落ちるからという、一種の皮肉である。

これを読んでいた私は、志村さんは、次々に発することばの数と、そのスピードが売り物のアナウンサーだったと想像していました。ところが、最近読んだ、アナウンサー・小川宏さんの著書『良い言葉は心の医者でもある』には、志村さんのこんなエピソードが紹介されているのです。まだ職業野球と呼ばれていた戦後間もない時代の話です。

ラジオの実況を担当した志村さんは、敬遠の四球をアナウンスするのに、まず「キャッチャー立ち上がりました」と言って、しばし沈黙。ミットに収まる球音を4つ聞かせて「お聞きのように敬遠のフォアボールです」とやったのだそうです。まさに、「沈黙こそ饒舌」を地で行くような逸話です。

常にしゃべり続けてもいけないし、かと言って間が抜けたような実況もいただけない。緩急、強弱、そこにメリハリがあってこそ、スピード感のあるしゃべりも、沈黙も生きてくるんでしょう。実況には正解も、マニュアルもないだけに、難しくもあり、また楽しいのです。


『アナウンサー藤村幸司ドットコム』


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